2024年01月02日
先月ロボットの学会でテキサスのオースティンに行ったのだが、飛行機のチケットの関係で2日も早入りすることになって時間があったので、せっかくアメリカなんだしレンタカーして観光してみるかと思い立ち、前から運転してみたかったテスラ車を借りて、テキサスのデカいフリーウェイを使ってヒューストンまで行ったりと、車社会アメリカを堪能する一人旅をしてみた。
せっかく車を使うならホテルではなくモーテルに泊まりたいと思い、Austin Motelというモーテルに宿泊した。古き良きアメリカの雰囲気が残る施設で、建物のレイアウトも当然、目の前に駐車場、部屋に入るとすぐにベッドがあり、奥に洗面所とバスタブがあるという、モーテル定番の構造だった。一泊200ドルくらいしたので、モーテルにしてはかなり高めの方だと思うが、その分とても綺麗な部屋でベッドも大きく居心地良く過ごせた。 ただ、一つ失敗したなと思ったのが、車を借りるんだから1日目と2日目は別の都市に宿泊して、移動しながら旅行するロードトリップ形式にすればよかったなということだ。実際、2日目は片道3時間のヒューストンに行って帰ってこないといけなくて、一人の運転だとなかなか疲れた。初日はオースティンに泊まったあと、翌日ヒューストンに移動して別のモーテルに宿泊してその後また学会のあるオースティンに戻ってくる、という形式の方が多少は楽だったかもしれない。
テスラを借りた理由としては2つあって、一つは最先端の「自動」(本当に自動と言っていいのかは諸説あるが)運転を体験してみたかったこと、それともう一つは普段あまり運転しないので、特に駐車するときの障害物センサや後方カメラなどの機能がしっかりしている車種を確実に選びたかったためだ。テスラは普通の車と違うところが多くある。そもそもキーも鍵型ではなくカード型で、ドアの横にタッチして開ける仕組みだったり、ギア(前進・バック・ニュートラルしかない)がハンドル脇のレバーだったりと特徴的である。私はこういうテスラの入門動画を見たり、アメリカのレンタカー会社のHertzのテスラ専用チュートリアルのウェブページを読んで予習しておいたので、すぐに使いこなすことができた。
やはりテスラといえば自律運転機能で、シフトレバーを一回押し下げるとオートパイロットが起動し、車間距離を保ったうえで規定の車速を維持してくれる。現在の制限速度もモニターに表示されるので、慣れない地域での運転に助かった。尚、どの車もたいてい法定速度を10~20キロくらいオーバーしていた。このオートパイロット機能は他のメーカーの車でもよくある機能だが、坂道を登る時に無意識に減速しなかったり、渋滞などでしょっちゅう動いたり止まったりする時も細かいペダル操作が不要なので、とても便利だった。
シフトスティックを二回押し下げると、テスラの目玉機能とも言えるオートステアが作動する。先ほどの速度調整に加えて、車線維持も自動的にやってくれる機能だ。これを使えば、同じ車線を走り続ける限りは基本的に運転手からの操作は特に不要となる。道なりに曲がった道路や、車線が擦り切れてちょっと見えづらくなった道路でも、安定してハンドル操作をしてくれた。とは言ってもまだ未成熟な技術なので、常に周りに目を配って、いざとなったら自分が操縦できるように注意はしていた。それでも、自分が運転しているときよりは気をもまずに済み、「監督者」として見守ればいいので、一人で長距離を運転するこの旅行ではとても助かった。だいたいオートステアに任せて、車線変更したり、フリーウェイを降りたり、飽きてきたら手動に切り替えながら運転していた。
尚、オートステアはベータ版のソフトということで、有効化するには設定アプリを開く必要があり、このような画面を読んで同意しなければならない。自分の命をベータ版ソフトに預けるのか、とちょっとドキドキしながら「Yes」を押した。テスラの目玉機能なのでほぼ全てのユーザーが有効化しているのだろう。いざ事故が起きたときに「ベータ版のソフトと明記していたのでユーザーが気を付けないといけなかった」などとテスラ社が責任逃れをするための仕組みのようにも感じるが、これこそ未完成の技術でも広く普及させてしまう、アメリカの底力ということなのだろう。
また、電気自動車特有の事情として、電池の残量を気にしながら計画を立てる必要がある。万一運転中にバッテリーがなくなったら、ガソリン車のようにガソリンを注入すればすぐに復帰するわけでもなく、レッカー移動となってしまうため大変だ。アメリカでもいまだガソリン車の方が圧倒的に多いので、充電スタンドもガソリンスタンドほど多くはない。また、航続距離もガソリン車に劣る。現状、EVの一番の弱みだろう。テスラ社もそれを理解しているようで、数々の対策がしてある。まず、ナビで経路検索すると、どれくらいバッテリーを使うかも計算してくれ、足りない場合は自動的に充電スタンドを経由地に追加してくれる。また、テスラ直営の充電スタンド「Supercharger」があちこちにあり、簡単に充電を済ませることができる。むしろ、これだけのインフラ整備を自社で行わないと、EVでの長距離移動はあまりに不便で、車も売れないだろう。
Superchargerではお洒落なスタンドが並び、テスラ独自規格(最近トヨタも採用したらしい)のプラグを差し込むと充電が始まる。充電し始めると、スタンドと車の双方でファンの回る大きな音がする。おそらく超高速でバッテリーを充電するために、急いで排熱しているのだろう。スタンドにも、「500V 350A」というすごい電圧・電流値が書いてあった。
日本とアメリカの運転の大きな違いとして右側通行ということがあるのだが、以前スイス(右側通行)でも長距離運転したときにある程度慣れていたので特に問題なかった。初めて右側運転した時は、方向指示器が日本と違ってハンドルの左側にあるので、ウインカーを出そうとしてワイパーを作動させてしまうことが何度かあった(右側通行というよりは左ハンドル車の特徴だが)。テスラ車の場合右側のスティックがギヤなので、間違えて操作してしまうとちょっと危ないかもしれない。 右側通行自体については、周りに車がいればどのレーンを進むべきかは明らかなので、本当に気を付けないといけないのは周りに車がいないときには特に左折したとき、ちゃんと右側のレーンに入るようにすることだ。またアメリカ特有のルールとして、赤信号でも右折してもいい(交差点にNo turn on redと書いてなければ)というのがある。これを知らないで右折のために信号を待っていると、後続の車にホーンを鳴らされるので気を付けよう!
テキサスのフリーウェイの傍には、テキサスらしい面白いものがたくさんある。3分ごろくらいに、一軒家ほどの大きさもある、クソデカ星条旗が空高くたなびいているのが見える。あまりに大きくて、最初見た時は感動して合衆国に忠誠を誓いそうになってしまった。車のディーラー、住宅展示場、ショッピングセンターの脇にほぼ必ず設置されているようである。たぶん、より大きい旗を掲げたほうが愛国的で素晴らしい、と競って旗を大きくしていくうちにハイパーインフレを起こしてしまったのだろう。この変わったテキサス文化は、ちょっとしたネットミームにもなっているようである。
また、訴訟大国アメリカらしく、弁護士の宣伝の看板がかなり多くある。運転していたので写真を撮れなかったのだが、Pusch & Nguyenという事務所が幅を利かせているようだった。それぞれ名前の発音に掛けた言葉遊びで、”We push. You win.”がモットーらしい。二人とも揃って戦闘力(物理的な意味で)の高そうな見た目で味がある。やはり体格の良い弁護士の方が信頼感があってウケるのだろうか。
その中でもロードトリップ中で一番楽しかったのは、Buc-ee’s(バッキーズ)というガソリンスタンドである。ご覧のとおり無数の給油機が並んでいて、車社会アメリカでも給油に並ぶことはまずないだろう。Superchargerもここに設置されているので、2回ほど利用した。
立ち並んだ給油機の横にはこれまた巨大な店舗があるのだが、これこそBuc-ee’sの見どころである。広い厨房で作られた出来立てのブリスケットバーガー(とても美味しかった)、壁一面に並べられたビーフジャーキー(“World famous jerky”らしい。聞いたことなかったが…)、マスコットキャラであるビーバーをあしらった数々のBuc-ee’sグッズ…など、ただのガソリンスタンド兼サービスエリアというよりテーマパークのような存在、それがBuc-ee’sだ。
ちなみにトイレもworld famousらしい。知らなかったけど。アメリカ人はなんでも「world famous」って言っておけば勝ちと思ってる節がありそう
At $125k+, the car wash manager at a (very large) gas station in rural Texas makes more than most doctors in Europe. pic.twitter.com/t9iXuJtDHH
— John Arnold (@JohnArnoldFndtn) December 9, 2023
なお、ここのカーウォッシュのマネージャーは年収1700万円以上あると、ちょうどこないだTwitterでバズっていた。やはり只者ではない、恐るべしBuc-ee’s…
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結局この記事はレンタカーの様子と、Buc-ee’sへの愛を語るだけになってしまった。ヒューストンで訪れた宇宙センターについてはまた気がのれば記事にしようと思う。車関連なので、ヒューストンでたまたまテスラの最新のCybertruckに遭遇した写真だけ載せておく。スペースシャトルと一緒という、なかなか贅沢なツーショットが撮れた。
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