2024年03月17日
ドイツでAdoのコンサートがあることに気がついたのはちょうど1週間前だった。Adoが初めてのワールドツアーをやることは何となく知っていたのだがまさかドイツにも来るとは思っていなかったので完全にノーマークだった。さすがにチケットもう売り切れだろうな…と思っていたけど一応たまにウェブサイトを確認していると、火曜日あたりに公式サイトでリセールチケットがいくつか出ていたので、割高だったが好きなアーティストがヨーロッパに来るなんて滅多にない機会なので思い切って買ってしまった。
ライブが行われる都市はデュッセルドルフで、ロンドンやパリに次いで日本人が多く住むヨーロッパの町として有名だ。もちろん人口はロンドンやパリよりずっと少ないので、日本人の割合がとても高い。日系企業の欧州本部が多く設置されているからだが、そのために日系スーパーや和食レストランが多く存在し、前から行ってみたかった街だった。
デュッセルドルフには午後1時ごろ着いたので、夜のライブの時間まではリトルトーキョーを満喫することにした。「麵処 匠」の醤油豚骨ラーメンを食べたのだが、店に近づいた時点で既にラーメン屋の「あの匂い」が漂ってきて、帰国した気分を味わえた(ラーメン一杯が16ユーロ≒2600円なのでそこで現実に引き戻される)。
インスタでライブの情報をチェックしていると、どうやら3時間前くらいからもう列ができているようだったので、慌てて会場に向かった。三菱電機ホールが会場なのだが、200メートルほど離れた地下鉄の駅の入り口まで列が伸びていた。意外と日本人は少なく、現地の人たちが体感で95%くらいを占めていた。中にはすでにAdoのグッズを持っている人(ヨーロッパの他の公演にも行ったのだろう)、よくわかんない日本語が書いてあるTシャツを着ている人などもいた。
尚、ここではライブ会場は飲食物持ち込み禁止なようで、リュックにしまっておいた明日の朝食を没収されてしまいちょっと悲しかった。リュックの奥に隠すべきだったホテルに寄って置いていけばよかった。会場内には物販もあり、AdoTシャツやAdoパーカーなどを売っていたのだが、列が全然進まないので諦めた。後で分かったが会場で隣の席の人はライブの6時間前くらいに会場入りして無事グッズを買えたのだがその時点で既に長い列ができていたとのことだった。指定席があるのになんでそんなに早くから並び始めるのか、理由が分かった。日本でずとまよのライブに行ったときは物販はオンラインで注文・支払いしておき、現地では番号を伝えて受け取るだけでとてもスムーズだったのでシステムの違いを感じた。需要はあるのだから、これから日本人アーティストがもっと海外公演するようになったら、このような物販システムも導入して、ドシドシ物販でも稼げるようになったらいいなと思う。ちなみに、隣の席の人はドイツ人男性で数日前のベルギー公演に行ったのだがあまりによかったのでそのままデュッセルドルフ公演のリセールチケットも買ったのだそう。
さて、ライブ本番。
一曲目は「新時代」。歌姫を前に会場全体で盛り上がる様子は、さながらワンピースフィルムREDそのままだった。私は、何度も聴いてきた好きな曲の数々を本人が目の前で、しかもドイツで日本語で歌って、それに盛り上がる人がこんなに大勢いるということに感極まっていた。続いて「うっせえわ」。心配になるくらい、最初から声帯が割れんばかりのがなりを効かせた迫力の歌声を出していたが、もちろんAdo様なのでそのまま全力疾走で問題なくライブを歌いきった。ドイツではワンピース経由でAdoを知った人が多いのか、ワンピースの曲が始まるとひときわ大きい歓声が響くのが印象に残った。「口から音源」とはよくアーティストのライブの誉め言葉で出てくるが、Adoの場合音源の歌唱を再現できるのは当然のことで、音源にはないちょっとしたアレンジがあったりして(むしろライブの方が、がなり声をもっと出していたと思う)余裕で口から音源以上の歌を聴かせてもらえた。
舞台上では、Adoはずっと例の檻に閉じ込められていた。紅白などのテレビ出演の際にも使われているアレだ。舞台の後方には巨大なLEDスクリーンがあり、そこからの明かりでAdoのシルエットはハイコントラストでよく見えるが顔は一切分からないようになっている。シルエットからでも気持ちが伝わるよう、歌いながらもしなやかに全身を動かし曲を表現していた。紅白に出演したときは東本願寺の能舞台から中継されていたが、素顔が見えない中、歌と動きで感情を表現しないといけないとは、なるほどこれは能だ、とライブ中一人で納得していた。スクリーンに映る映像はそれぞれの曲のテーマに合わせて制作されていて、たぶんMVともまた異なるものだったと思う。例えば「レディメイド」では赤い洋服を着たマネキンがたくさん配置されるのだが、スポットライトと連動しているのか、光の当たり具合と映像がちょうどうまい具合にマッチして、本物のマネキンがあるのかと一瞬思ってしまったほどだ。「夜のピエロ」では、東京の高層ビル群がネオンのように輝き、その中を飛んでいくという映像だった。世界ツアーで各都市1公演ずつだと大がかりなセットが組むのが難しそうだが、(Adoの歌声そのままだけでも十分ショーとして成り立つのは当然として)このシステムのおかげで何度も舞台チェンジしてるように思えた。檻にもLEDが散りばめられていて映像を映せるようになっていて、スクリーンと連動していた。
この檻は公式には「Ado Box」というらしい。ライブ中写真撮影する人が出たら、Ado Boxが無効化(deactivate)されて声しか聞こえなくなります、と事前に注意されていた。ライブ中、写真を撮ろうとする人は一切見られなかった。みんな盛り上がるべきところは盛り上がり、静かなところは静かに聴き、マナーはとても良かった。
【Tour "Wish" Reminder】
— Ado Staff (@ado_staff) March 13, 2024
NO PHOTOS, NO VIDEOS, NO RECORDINGS, NO BINOCULARS ARE ALLOWED
If we have anyone uncooperative, Ado Box will be deactivated. Consequently, you will not have visual access to Ado, only her voice. pic.twitter.com/krGuLrmTNq
「deactivate」とはどういうことか、と気になったが、たぶん不透明になって内部にいるAdoの様子が見えなくなるということだろう。曲の合間の一息つくタイミングで、しばらくAdo Boxが真っ青になって中が全く見えなくなることがあった。仕組みは全然見えなかったが、おそらく物理的に開閉するのは複雑すぎるので、檻に張り巡らされたLEDを明るく点灯することで、内外の明暗差により中を全く見えなくしているのだろう。最前列にいてもAdoの顔は一切見えないようになっていると思う。Adoのように顔出ししていないアーティストである、ずっと真夜中でいいのに。のライブにも行ったことがあるが、そこでは檻などはなく、背後からスポットライトを当てることでACAねはステージを動き回りつつ、顔は見えないような仕組みになっていた。この方法だと、おそらく前の方に座っていればチラっと顔が見えてしまうこともあると思う。Adoの場合、顔は絶対に見せないというさらに強い意思を感じた。
個人的に一番盛り上がったのは、紅白でも歌っていた「唱」だった。ライブ最後の曲として歌われた(その後アンコールで更に4曲くらい歌ってくれたが)。日本語の言葉遊びというか早口言葉みたいな、「全土絢爛豪華 attention 騒ごうか」「感情通りに八艘飛び」なんて歌詞の曲がそのままで海外でも盛り上がっていたのが面白かった。源義経が知ったらびっくりするだろう。
唱の前にMCパートがあったが、「Haben Sie Spaß??(みなさん楽しんでますか〜?」などと、たまにドイツ語を交えながら話してくれた。日本語を話す時は、ドイツ語字幕も表示されていたが、初心者でも理解しやすいように言葉を区切りながら、割と簡単な言葉を使って話してくれていたように聞こえた。観客の反応からして、なんとなく日本語を理解してくれている人が多かったようだった。海外に行くの自体が初めてで(ワールドツアーが初海外ってかっこよすぎる)、デュッセルドルフは日本食がたくさんあるので嬉しかったそうで、「皆さんはどの和食が好きですか??!寿司!!???ラーメン!!???」と聞いたりしていた(反応の声量ではラーメンファンの方が多そうだった)。
アンコールではまずワンピースからの曲をもうひとつ歌った後、ボーカロイド曲を2曲をカバーした。その2曲目で「千本桜」が流れ始めた時は本当にびっくりした。中学生の頃何度も聴いていた曲だったので、まさかドイツでAdoが歌うのを聴けるとは……。ちなみに歌詞中にICBMが出てくるが、その部分だけ政治的配慮からか歌っていなかったように聞こえた。その後、「日本の文化のボーカロイドというものをもっと知ってもらいたくて2曲歌わせてもらいました」と紹介していた。文化的アンバサダーとしての役割も意識していたのかもしれない。
本当の最後は「踊」で締められた。会場全体で曲に合わせて跳ね回って歌い、最高に盛り上がってライブは終了した。
THE FIRST WORLD TOUR “Wish”
— Ado Staff (@ado_staff) March 18, 2024
Mar 16th, Mitsubishi Electric Halle in Düsseldorf
Thank you!! #AdoWish #AdoDUS2024 pic.twitter.com/DYRulYr6KL
海外で日本のアーティストが評価されて盛り上がっているのを観るのは嬉しいし、ヨーロッパにいてもライブに行けるのは最高だ。最近のJ-POPはヨーロッパではアニメ人気と相まってどんどん広まっている気がする。実際、このライブを運営しているのは海外のアニメ配信サービスのCrunchyrollだった。これからもどんどん、(アーティストたちにに負担のかからない範囲で)世界にも出ていってほしいと思った。
2024.3/19追記:@ado_staffのツイッターアカウントでデュッセルドルフ公演の映像がアップロードされていたので追加
□