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ファンタジースプリングスにも影響を与えた「アールヌーヴォー」の聖地、ナンシーを巡る旅

2024年11月08日

アールヌーヴォー様式をご存じでしょうか。19世紀末から20世紀初頭にかけてヨーロッパを中心に発展したスタイルで、植物のツタがからんだような有機的な曲線や、ガラスや金属など当時としては最先端の素材で自然の形状を再現したようなデザインが特徴です。家具から建築、グラフィックデザインまで幅広く影響を与えました。第一次世界大戦頃からの主流はより実用的なデザインに移り変わっていってしまいましたが、最近ではディズニーシーの新エリアのファンタジースプリングスに開業したホテル、ファンタジーシャトーのデザインも、アールヌーヴォーと言っていいと思います。先月、アールヌーヴォーの聖地であるフランスのナンシーに行き、今も残るアールヌーヴォーの空気を感じる旅をすることができたので写真とともに振り返っていこうと思います。

ファンタジーシャトーは明らかにアールヌーヴォーを意識してデザインされていると思います。内装もアールヌーヴォー様式の家具が多く使われているので、そのうち泊まってみたいですね!
ちなみに同じくディズニーホテルであるアンバサダーホテルは、これの後に流行ったアールデコ様式で建てられています。

また、今でも人気なミュシャのポスターにも、くるくると巻く髪や周囲の装飾要素などにアールヌーヴォーの影響が見られます。

アールヌーヴォーの生きる博物館、ナンシー

そのアールヌーヴォーが最も栄えた街が、フランスのナンシーです。この街では今も数多くのアールヌーヴォー様式の建築が街中に残っており、歩いているだけでさながら美術館のようです。

有名な建物はGoogleマップで登録しておいて、歩きながら巡っていったのですが、マップにも載っていない建物にもたくさん遭遇できました。どれも現役の建物として使われているものです。また、最近作られた看板などでもそれらしいデザインを見つけることができました。このような「野良アールヌーヴォー」に遭遇すると、街の歴史を感じることができて面白いです。

スーパーの宅配サービスをお知らせする看板のフォントもアールヌーヴォー

TGV(フランスの新幹線)の表示板もさりげなくアールヌーヴォーでおしゃれ!

アールヌーヴォーの「総本山」、ナンシー派の作品をまとめた美術館

インテリアとしてのアールヌーヴォーは、アールヌーヴォー運動に大きな貢献をした「ナンシー派」というグループの作品を集めたナンシー派美術館で数多く見ることができます。ぐにゃりと曲がった机や天井からツタが生えてきたようなランプのある家で過ごしたら楽しそう…と想像が膨らみます。

単品の家具だけでなく、部屋ごと当時の様子を再現してくれていて、当時の雰囲気をそのまま感じることができます。学生は入場料が無料だったのも嬉しかったです。見学していると、子どもたち10人くらいに向けたツアーが始まって、ちびっ子たちが床に座りながら、学芸員の方と「あの家具は何の形をまねてるんだろう?」とやりとりしていました。こういうところからも、フランスが文化の維持と教育にいかに力を入れているかが伝わってきます。

アールヌーヴォーの衰退

しかし、あなたの周りのインテリアや建物を見れば分かる通り(あなたが現在ファンタジーシャトーに泊まっているなら別です。しかしその場合、こんな記事を読んでいる場合ではないでしょう)、このデザイン様式は今ではあまり見かけることはありません。なぜ廃れてしまったのでしょうか。ここからはある程度の個人的な解釈も入ってしまうのでご了承ください。

実はアールヌーヴォーには二つの側面がありました。一つは、木などの伝統的な素材を削り出し精巧に「自然」を再現する、職人の技が光るような少量生産の手工業としての一面。もう一つは、19世紀末から工業化が発展したことで、鉄やガラスなどの新素材が楽に入手できるようになり、強度のある鉄を自在に曲げてガラスと組み合わせるなどの、斬新なデザインの可能性を追求する技術的な一面。アールヌーヴォーが流行したのは19世紀末から20世紀初頭。まさに手工業から工業化へと移り変わり、一般市民向けの商品なども大量生産が可能となっていきはじめた時代に発展しました。一見すると、アールヌーヴォーの新技術を取り入れるという面は、これと親和性が高いように思えます。しかし、このスタイルを量産するとなると、「形が複雑すぎる」という実に単純な問題があります。変にグネグネした形状より、直線を組み合わせたデザインの方がずっと作りやすいです。また、建物などの構造解析が必要なもの設計するとなると、当時は有限要素法によるシミュレーションもなく、単純な形状の方がモデル化しやすい、という事情もあったでしょう。

また、当時は最初の世界大戦に突入しつつあるきな臭い世の中で、より実用的なデザインが求められていました。そこで登場したのが、アールデコ様式です。ナンシー派美術館にも、「アールヌーヴォーとアールデコの狭間の時期に作られた机」があり、どちらの様式の雰囲気もあり興味深いです。

アールデコはアメリカで一番発展しましたが(マンハッタンはアールデコ高層ビルの宝庫です)、ヨーロッパでも広がりました。ナンシーで現在ZARAが営業している店舗の建物は、アールデコ様式で建てられています。

100年の時を経て、アールヌーヴォーは復興できるか?

ここから先は完全に個人的な希望ですが、アールヌーヴォーが衰退してから100年近くたった今、再び主流となる可能性もあるのではないかと夢想しています。生産技術が発達し、複雑な形状もコンピュータ制御(CNC)で簡単に作り出せるようになりました。家庭で使えるような3Dプリンタも登場するほど、生産の敷居が低くなっています。また、コンピュータの発展により複雑な形状もシミュレーションすることができるようになりました。

ここで、例えば有限要素解析によりアールヌーヴォーの流れを汲む有機的な形状を最適化していき、強度を保ちつつ軽量化し、CNCで作ることだってできるでしょう。もしかしたら更に生成AIと組むことで、既存の構造の役割と強度を保ったまま「アールヌーヴォー化」することもできるかもしれません。100年経って技術が再び追いつき、アールヌーヴォーのような自然を再現した形状が再び流行するための土壌が出来上がっている気がしています。


最後に、アールヌーヴォーとは関係ありませんが、ナンシーを出発する直前に市庁舎で行われていた「通信技術の変遷」についての特別展にふらっと立ち寄った時の展示内容がとても素晴らしく、機械式の電話交換機などが動態保存されていたりとかなり面白かったので動画にまとめてみました。



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