私は先日、東京の日仏学院でDELF B2の試験を受験してきました。この記事では、私が行った受験対策と、当日の試験の様子についてまとめます。
いままでのフランス語経験
私がフランス語を本格的に勉強し始めたのは、大学生の頃でした。小学校の頃に3年近くニューヨークに住んでいた帰国子女だったため英語は話せたので、もう一つの言語を一から習得してみたいという思いがありました。もともと高校生の頃にNHKのラジオ講座などで、さわりだけフランス語を勉強していたのですが、大学では東大の理一で第二外国語としてフランス語を選択し、再び基礎から学ぶ授業を受けました。
その後、「フランス語中級」の授業を取って日本人の先生とフランス語のニュースを読解する授業を受けたり、「フランス語上級」では、東大教養学部のフランス人の先生と、フランスや日本の映画や絵画などを見ながら、それについてまとめたり議論を交わしたりする、より深いレベルでのフランス語会話が求められる授業を受けていました。理系の学生でも興味に応じてこのような上級向けの語学授業を取れるという東大の仕組みは、非常に良かったと思います。
また、HelloTalkというアプリでフランス人のペンフレンドを作って会話の練習をしたことも、フランス語力を伸ばす上で非常に助けになりました。さらに、聞き取りの面で特に力を発揮したと思うのが、ディズニーソングのフランス語版を聴くことです。ディズニーは各国で配給するためにさまざまな言語版で曲を収録しているので、もともと知っている曲のフランス語版を聴くことで、実際の言い回しや、フランス語特有のアンシェヌマンやリエゾンが豊富に含まれた発音を耳にすることができました。歌として覚えることで、聞き取り能力や、実際の会話で使うようなフレーズの獲得にも役立ったと思います。
それに加えて、やさしめのフランス語を使ったポッドキャストやYouTube動画など、さまざまな媒体に日常的に触れるようにしていました。そのおかげで、2022年にチューリッヒに博士課程で引っ越したときには、すでに基本的な日常会話であれば問題なくフランス語で話せる状態になっていました。フランス語圏ではなく、チューリッヒというドイツ語圏に引っ越すことになってしまったのは少し残念でしたが、それでもチューリッヒからパリへは電車で3時間ほどと非常に近いので、その立地を生かして、しょっちゅうパリだけでなくフランス各地へ旅行していました。旅行中に頻繁に現地の人と会話するというわけではないのですが、アナウンスを聞いたり、お店での注文をしたり、たまに現地の人と雑談することも、フランス語力の維持に役立ちました。
DELF受験を決めた理由
さて、今まで特に認定試験を受けたことはなく、いわば「野良フランス語」のような状態で、たまにフランスに行ったときに使う程度でした。しかし、この機会に一度、公式のフランス語試験を受けて、自分がどれくらいのレベルなのかを公的に証明しておきたいと思い、DELFの受験を決めました。
最初はB1が取れればいいと思っていたのですが、過去問を解いてみたところ、案外B2もすらすら解けることに気づきました。どうせならと思い、B2を受験することにしました。なのでこの記事では、すでにある程度フランス語はわかるし、過去問もある程度解けるけれど、試験でしっかり点を取るために、特にアウトプット系の試験であるライティングとスピーキングに絞って対策した過程についてまとめています。
試験対策
試験合格への戦略
DELF B2の試験では、リスニング、リーディング、スピーキング、ライティングの4セクションがあり、それぞれ25点ずつの配点で、合計50点以上取れれば合格です。ただし、各セクションで最低でも5点以上取るという条件もあります。 リーディングとリスニングは過去問の時点でかなり自信があり、これらだけでほぼ50点は取れると考えていました。そこで、ライティングとスピーキングでいかに「死なないか」、つまり25点中5点以上を確実に取れるかにフォーカスして対策を行いました。
ライティング対策
ライティングに関しては文字だけを扱うので、ChatGPTなどのAIでもかなり対策できるのではないかと思い、最初にそこから対策を始めました。ChatGPTにB2レベルのライティング課題のお題を考えてもらい、それを実際に書き、さらに採点してもらうというフローを作りました。 もともとの本番形式では1時間で250語以上のエッセイを書く必要がありますが、それは大変なので、30分で150語を書くという短縮版の練習をしていました。ここにプロンプトを貼っておきます。
Tu es examinateur DELF B2. Présente un sujet de production écrite réaliste (type débat / lettre formelle / article critique). Contraintes : 150 mots minimum, consigne claire, public cible, contexte. Pour s’entraîner avec une version plus courte de l’examen, propose un sujet unique et concis. Ensuite, attends le texte.
採点のためのプロンプトは次の通りです。
You are a DELF B2 corrector. Grade this text (note: this was written with a “150 words minimum” criteria instead of the default 250, for a shorter practice session) out of 25 using these criteria: réalisation de la tâche, cohérence/cohésion, adéquation sociolinguistique, lexique, morphosyntaxe. Give: (1) a band/score per criterion, (2) 10 most important corrections grouped by category, (3) 5 better connectors that could have used, (4) 3 sentence-level rewrites that keep the meaning, (5) one short action plan for a rewrite. Do not rewrite the whole text.
このように、採点の最後に改善できる表現も教えてもらうようにしました。DELF B2のライティング試験は、ある程度出題トピックが限られていて、よくあるパターンとしては、上司や市長などに対して、会社や街の改善を求める嘆願書のような手紙を書くものがあります。その際、日本語で言う「拝啓」にあたる挨拶や、各論をつなぐための tout d’abord、ensuite などの表現についても知ることができ、より試験に即した表現を覚えることができました。
こうした表現を効率的に覚えるために、Ankiで対策カードを作り、空き時間に覚えるようにしていました。もともとフランス語の基礎はあったので、これらの単語や表現は「見ればだいたいわかるけれど、自分からは出てこない」というタイプのものが多く、比較的早く覚えることができました。
また、フランスのテレビ局TV5MONDEが運営しているサイトでは、実際のニュース記事や動画を見て、それに対する質問に答えることで理解度を測る実践的なクイズ形式の教材が無料で公開されています。DELFのレベルごとに分かれているので、私はそのB2レベルの記事をいくつか読みました。そこでライティングに使えそうな表現に出会ったら、それもAnkiカードに加えるようにしていました。結果的に、ライティング本番ではそれらの表現のいくつかを文脈に即して使うことができたので、この勉強法は非常にコスパが良かったと思います。
スピーキング対策
スピーキングについては、まずラボにフランス人の研究者がいたので、その人と話すときにたまにフランス語で会話させてもらって勝手に練習させてもらっていました。試験当日に突然、久しぶりにフランス語を話しても、なかなか言葉が出てこないと思うので、意識的にフランス語脳を鍛えるようにしていました。
それでも忙しかったので、試験対策としてのフランス語会話は、試験直前までほとんどできませんでした。これは本当に直前だったので、あまり褒められた勉強法とは言えないのですが、私は試験前日にフランス人の先生2人と、それぞれ2時間ずつ特訓レッスンをすることで、緊急対策としてのスピーキング練習をしました。定期的なレッスンではなく、1回限りの特例的なレッスンということで、相場より多めにレッスン料を支払わせていただきました。
レッスンでは、スピーキング試験で出そうな内容をもとに、雑談のような形式で議論を進め、使えそうな表現があればメモしていくという形を取りました。また、2人目の先生(Enjoy Lessonというサイトで見つけたSamuel先生です)は、弟さんも日本に住んでいて、しかもB2のスピーキング試験官をしたことがあるとのことで、実際の試験事情を詳しく聞くことができてよかったです。
B2のスピーキング試験では、スピーチをした後に質疑応答がありますが、その質疑応答はどちらかというとディベートに近く、自分が話した内容に対して突っ込まれたり、それに対してある程度譲歩しながら反論したりする必要があるとのことでした。また、スピーキングとライティングのどちらにおいても、「ニュアンスを出す」ことが大事だと言われました(il faut nuancer)。ある意見について全面的に賛成するのではなく、「この点には賛成だが、こういう問題もある。それでもこのような対策で乗り越えていかなければならない」といったように、白黒に留まらない議論をすることが重要だそうです。
そして最近の問題傾向からして、おそらくAIや技術についての話は聞かれるだろうということで、その点について重点的に対策をしました。
試験当日

そして迎えた試験当日。冊子はA4の紙を普通のプリンターで印刷してホチキス止めしただけのもので、かなり簡易的な印象を受けました。また、リスニングもヘッドホンではなく、コンピューターでVLCを使ってmp3ファイルを再生するという、これまた手作り感のある方式で、TOEICやIELTSなどのより大規模な試験とは異なり、興味深かったです。
私はおそらく試験登録を比較的早めにしていたため、筆記試験が終わった1時間半後にはスピーキング試験を受けることができました。さっさと試験を終わらせたいなら、早めに登録するのがよいのではないかと思います。

では、各セクションについて振り返っていきます。
リスニング本番
最初はリスニングです。なぜか過去問で聞いていた会話よりもだいぶ速いように感じて、少し焦りました。まさか自分がB1の過去問を解いていたのではないか、などと少々不安になりながらも、「正しい選択肢を選べばいい」という基本に戻って解くことができました。つまり、言っていないことは、いくら文脈に即していても×で、ちゃんと言っていたことは、選択肢で多少言い換えされていても○ということです。
最初の2問は2回ずつ再生があり、最後の問題は1度しか再生されませんが、ちゃんとそれに合わせて難易度が調整されていると感じました。
また、これも具体的なTipsですが、試験会場の席は自由なので、早めに並んでスピーカーに近い前方の席を取るのがおすすめです。試験を案内する音声の指示は毎回ほぼ同じなので、その間に各問題文と選択肢を読んで、会話が流れる前にどの点が聞かれるのかを意識しながら音声を聴くのが重要だと思います。
リーディング本番
次はリーディングです。こちらは過去問と比較しても同じくらいの難易度だと感じました。そこそこ早く終わったので、一度見直しをした後、そのままライティングセクションに移りました。
ライティング本番
今回出たのは、「あなたは会社の社員を代表して、昼休みに無料のスポーツレッスンを受けられるように会社の経営陣を説得する手紙を書いてください」という内容でした。「王道」の嘆願書タイプの出題だったので、覚えていたテンプレートを使いつつ、まず挨拶、序論、2つの支持理由、想定される反対意見、それに対する再反論、最後の挨拶、という流れで文章を書いていきました。
白紙のメモ用紙が渡されるのですが、そこに論点のキーワードを書いて全体の流れを構成してから、それをどのような表現で文章化するかも軽くメモしていきました。下書きをがっつり書くというほどではありませんが、書くべき要素と、その表現方法を整理してから本文を書いた形です。
その際、対策で覚えていた表現を活用したり、さらにリーディングで登場した文章に出てくる表現も適度に拝借したりして、できるだけ自然でまとまりのある文章にすることを心がけました。一応、最低250語という制限がありますが、最終的には300語くらい書くことができました。
スピーキング本番

スピーキング試験は、藤本壮介さん設計の日仏学院新校舎で行われました。まず30分間の準備を行う部屋に通されます。ここでは2つのお題が与えられ、そのうち1つを自分で選んで準備を行います。
私が渡された紙にあったお題は、1つがワークライフバランスの実現について、もう1つが女性の社会進出について、というものでした。私はワークライフバランスを選び、新しい人工知能などのテクノロジーによってより効率的に仕事を終えることで、ワークライフバランスを実現しやすくなる、という自分の得意分野に寄せた議論をすることにしました。
準備では、下書き用紙にほぼスピーチ原稿のようなものを書いていき、その場でテンパってしまっても、最悪それを読み上げれば大丈夫、という形にしておきました。
そして実際のスピーキング試験会場に通されると、フランス人女性の試験官2人との会話形式でした。片方がディスカッションを担当し、もう片方がメモを取る、という分担だったように思います。時計を見ていなかったのでどれくらい話していたのか正確には分かりませんが、最初のスピーチはたぶん5分くらいだったと思います。
その後、試験官がAIの部分について深掘りしてくれたので、「しめしめ」と思い、前日に特訓で話していたような流れで議論を進めることができました。多少、少し無理のある議論もしてしまったかもしれませんが、ある程度自分の専門分野に近いこともあって、比較的スムーズにディベートができたと思います。
まとめ
以上が、私のDELF B2試験の対策と当日の様子についての体験でした。AIも活用しながらかなり効率的に対策できたと思いますが、最終的にはやはり、教えた経験のある先生とじっくり時間を取れたのが大きかったと思います。 手応えはあったので、試験結果が返ってくる約1か月後まで、気長に待とうと思います。
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